F.L.アレン『シンス・イエスタディ』

 先日、「シンデレラマン」を観ていた時に、「ジム・ブラドックは、果たして『シンス・イエスタディ』にのっているんだろうか?」という疑問が急に湧いてきて、猛烈に調べたくなってしまった。そのときは本を持っていなかったのだが、そのあと手に入れて、今日、読み終わった。
 『シンス・イエスタディ』は、1930年代のアメリカについて書かれた最良の社会史の本だと思う。政治、経済、文化についてなら何でも書いてある。それこそ大恐慌ニューディール禁酒法廃止や国際情勢からベストセラーやファッション、スポーツ、その他流行のもの、スキャンダルまで包括的に記述されていて楽しい。参考文献も政治や経済や歴史のいわゆる学術書みたいなものばかりでなく雑誌や広告みたいなものまで幅広くあがっていて、切り口が鋭くて、本当に面白いのだ。これ一冊で1930年代のアメリカに生きているような気分になれるありがたい本だった。(大恐慌時代のアメリカを生きているような気分になれるなんてあんまり嬉しくないけれど・・・。)
 しかも原著は1939年に出版されている。歴史を記述するにはビミョーな年代。まだ完全な評価が固まっていない。けれどもリアルタイムではない。この本の魅力の一つは、この主観と客観の間みたいなタイムラグにあるような気がする。
 実はこの『シンス・イエスタディ』は『オンリー・イエスタディ』という1920年代のアメリカについて書かれた本の続編である。アレンは、『オンリー・イエスタディ』の成功で「ジャズエイジヘロドトス」と呼ばれたけれど、なるほどって感じ。私はこの『オンリー・イエスタディ』が死ぬほど好きなのだ。学術書っぽいつくりながら、中味は下手な雑誌や小説より滅法面白い。一年に一度は読み返さずにはいられない。それにくらべると「シンス」のほうは、イマイチなところもある。まあ、時代が悪いよね。しょうがない。ちなみに「シンデラマン」ジム・ブラドックはタイトルとったことと、タイトルを奪われたことで、二度、本に名前が載っていた。確認できて心安らかな気分になった。

 今日はその他、DVDで石井克人監督の『茶の味』を観た。少し長いような気がしたけれど、桜、田んぼ、空とかがとてもきれいな映像だった。話もほのぼのしていて楽しかった。