吉見俊哉 『万博幻想』

 

 吉見俊哉の『万博幻想 -戦後政治の呪縛』(ちくま新書526)を読んだ。吉見俊哉というと『博覧会の政治学 −まなざしの近代』(中公新書1090)という名著があって、今回の本はその続編ともいうべき本。と言っても、直接の続編ではない。『博覧会の政治学』は万国博覧会という装置が近代の中でどのように機能したのか、それを帝国主義や消費社会、あるいは大衆娯楽という文脈で読み解いていくということに重点を置いていたが、『万博幻想』では、日本の戦後の万博を詳細に分析することによって政治や市民社会の特徴が浮き彫りにされている。特に日本の万博が博覧会に名を借りた地域開発主義であったことなどが、細かく検証されていたこと、また愛知万博での市民運動環境保護運動などを通じて、市民参加のあり方などを考えていたことなどが、戦後の日本の歩みそのものを顕現しているようで読んでいて面白かった。
 個人的には万国博覧会っていうのは20世紀における「限りない進歩と発展」への信仰告白みたいなもので、その成果の一つがある意味、2度の世界大戦だったのではないかと考えているので、万国博覧会自体の役割はもうかなり終わっているのではないかと思っている。けれども本書の文脈で考えれば、世界の中でも日本が戦後体験したような開発を望む地域ではこれからもいくらでも万博は続くのだろうという気がしてきた。折しも今日、上海からのニュースで、今回の反日暴動みたいなことは上海では起こっていないと繰り返し言っているのを聞くと、万博がらみなのかなと勘ぐりたくなった。
 そういえば、この本を読んでいて意外だったのが、つくばのエキスポについての部分。子供心にはつくばのエキスポは、非常に人気が高かったと記憶していたのだけれど、ターゲットにされていたための幻想だったのかと今ごろ納得した。